受講者からの便り(37)


No.37
2004年 6月 8日〜14日(某自治体:キャリアデザイン研修)

矢野先生へ

こんばんは。私は去る8日と本日キャリアデザイン研修を受講いたしました、○○県の■■と申します。2日間にわたり、たいへん楽しく興味深く参加させていただきました。ありがとうございました。
お言葉に甘えて早速にメールいたします。

2日に渡る研修の中で、過去に関わった一番印象深い仕事についてグループで話し合った際、それぞれに職種も、関わった仕事も異なっているものの、その体験をする状況と、その後の自分に対する影響の仕方があまりによく似ているので、みんな驚いてしまいました。
共通していたのは、自分が望んでそのポストに就いたのではなく、たまたまそこに居たがために遂行することを求められ、やらざるを得ない状況に追い込まれたということ、が第1。自分が選べる立場にいたら絶対近づこうとはしない類の仕事、自分が設定する自分の能力を超えた仕事だったのを、誰かに背中を押されて飛び込まざるをえなくなった状況、というのが皆同じでした。
そして、第2の共通点は、怖くて逃げ出したい気持ちがいつも傍にある中で、溺れ、もがきながら仕事をし、そしてやり遂げることができたということ。
そして第3の共通点は、あの仕事をやり遂げたから今の自分がある、あの仕事に巡り会えたことを感謝している、と感じていることでした。
「背中を押してもらって少し無理をしたら、やっぱり新しい世界が開けるんやなあ、人間にとって仕事というのは大事なんやなあ…」と感慨深げでした。
また、そんな経験をしたことがある人たちは、研修での発言も積極的でした。たぶん職場や私生活でも同じでしょう。
そこはかとない自信が感じられました。

私は既に41歳になり、普通に県職員生活を全うするとして、ちょうど折り返し点くらいの位置にいるのだなあと感じている今日この頃です。
20代の頃は自分に自信が持てなくて、けれどもプライドは高く傷つきやすく、対人恐怖気味の青年でした。しかし30代になって超多忙な職場に配属され、深夜の残業を重ねながら業務を全うすることを繰り返す中で、いつしかそれが自信になり、そして日々の生活が気持ち的にたいへん楽になりました。私も「仕事が自分を育ててくれた」と感じています。
また、30代のときのストックといいますか、県庁のいたるところに友人知人ができ、今や県庁で仕事をしていく上での不安材料は、まったくといっていいほどありません。
しかし、最近、他者とのコミュニケーションにおいて自信喪失というか、悔しい思いをしていることがあり、もう一度初心に帰ってこれからの自分を再構築する必要があるということを考えるようになりました。
 「悔しい思い」というのは、昨年度から息子が小学生になり、私は組織の中での自分に自信がありましたから、大多数の女性陣に混じって学校のPTAに参加するようになり、今年からはPTA本部役員を仰せつかったのですが、まず県とはまったく物事の進め方や意志決定の仕方が違っていて、今のところ「俺は役に立っていないなあ」と感じていることです。男女差ということもあるのでしょう。人間関係は当然ゼロからのスタートです。
その結果、興味深いことに20代の頃の、対人恐怖の私が復活したのでした。これには自分でも驚きました。すっかり克服して生まれ変わったつもりだったのに…
このPTAでの出来事を契機に、最近の県庁での仕事ぶりを振り返ってみました。すると、いつの間にか自信が慢心になっている自分にまず気付きました。また、「わが社」が自分にとっては母の胎内のような、すっかり居心地の良い環境になっていることに気付きました。
物の考え方が「県庁流」になってしまっていて、それが世間のスタンダードであるとも錯覚していました。「俺はどこへ行ってもできる奴だ」と錯覚していたんですね。けっこうショックでした。民間企業の方とも、仕事を通じて多く接していて、これまで人間関係もうまく構築してきたと自負していますが、よくよく考えると、私どもの仕事が欲しいと思って集まった企業さんを相手につき合いがスタートしているわけですから、県庁の流儀に合わせてくださっているところが多いはずです。
人間には「生まれ変わる」ということはないのかもしれませんね。対人恐怖の私は消えずに、自信の陰で、ただ休憩していただけのようです。
しかし20代の私と違うのは、対人恐怖の自分を嫌うのではなく、逆に一つの自分としておもしろがって大事にしてやろうと思います。それが年の功というものでしょう(笑)。当面、PTAという組織をよく観察してみます。

長文になりすみませんでした。最近の私の置かれた状況(一種の中年期クライシスかも!)にぴったりの研修でしたので、思い入れたっぷりに書きまくってしまいました。
昔、ある作家のエッセイで「不安材料を持たない人間はダメだ」というメッセージを読んだとき、20代の対人恐怖の私はずいぶん励まされたものでしたが、最近ではずっとこの言葉を忘れていました。そして今またこの言葉を噛みしめています。初心に帰ってドキドキワクワクしてみます。
それでは、今後とも○○県をよろしくお願いいたします。